ER=EPR――もつれとワームホールを同一視する仮説
遠く離れた二つの量子が強く相関する量子もつれ(EPR)と、相対論で現れるワームホール(ER)は、同じものの別の記述なのではないか。ER=EPR は、マルダセナとサスキンドが2013年に提案した大胆な見取り図です。原論文
二つの略語
EPR は、二つの粒子の測定結果に古典的には説明しにくい相関が現れる現象を指します。相関は瞬時の通信を可能にしません。測定結果を持ち寄って初めて相関が確認できるため、光より速い信号を送る装置にはなりません。
ER はアインシュタイン=ローゼン橋、すなわちワームホールの数学的な原型です。古典的な一般相対論の標準的なワームホールは、外から入って反対側へ通り抜けられる近道ではありません。
「つながっている」の意味
この仮説は、もつれた二つのブラックホールを記述する理論で、二つの領域を結ぶ幾何学が現れることに着目します。そこでの「橋」は、もつれを空間的なつながりとして表したものです。粒子の組を小さな穴で結び、宇宙を横断できるという主張ではありません。
後には、適切な量子操作を加えた模型で「通行可能なワームホール」と同じ情報の振る舞いを実現できることも示されました。しかし、これは量子テレポーテーションと整合する情報処理であり、人や物体を送る実験ではありません。実験的シミュレーションの報告も、この区別を明記しています。
なぜ重要なのか
ER=EPR は、時空の幾何と量子情報を別々の話として扱わずにすむかもしれない、と示唆します。仮説そのものは未検証です。それでも、ブラックホール情報問題やホログラフィーで、何が「内側」と呼べるのかを問う強力な発想になっています。
次は、外から与えられた絶対時間を使わず、量子系の内部から時間を読む試みを見ます。→ 量子時計から時間と重力を考える